製品開発ストーリー「やわらGELグリップ4点杖」|シナノ 技術開発部

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杖・ステッキやわらGELグリップ4点杖

市場で求められていたのは、小さくても安心して使える4点杖でした。
コンパクトさ、安定感、強度、そしてこれまでの杖とは違う見た目。
そのすべてに向き合った、やわらGELグリップ4点杖の開発ストーリーを紹介します。

求められていたのは、小さくて頼れる4点杖
― 小さな足元に込められた技術者のこだわり ―

やわらGELグリップ4点杖
シナノ 技術開発部 プロフィール画像

話を聞いたのは…

技術開発部

加野 貴慎 Takanori Kano

「ものづくりに携わりたい、そして地元に貢献したい」という想いから、シナノへ入社し製品開発を担当。
「ユーザーの『できなかった』を『できる』に変え、身体だけでなく心も支えられる、他にはない唯一無二の価値を持つ製品づくりを心掛けています。」

はじまりは、小さな4点杖への期待

きっかけは2021年、営業の現場から届いたひとつの声だった。
当時、介護保険の対象になるスモールベースタイプの多点杖が市場で求められ始めていた。一般的な介護対象の多点杖は、基底面(4本足の間の部分の面積)が広く、歩行時や立ち上がりの荷重を安定して支える役割を持っている。
一方で、従来の多点杖よりもコンパクトで、歩行時に邪魔になりにくく、見た目もスタイリッシュなスモールベースタイプの4点杖を求めるユーザーの声も高まりを見せていた。商談の中でも、「今はスモールベースだよ」という空気があったという。

脚部の大きな多点杖とコンパクトな多点杖の比較画像

シナノにしかない4点杖を作りたい
その要望を受けて新しい4点杖の開発は動き出した。グリップには、すでに実績のある「やわらGELグリップ」を採用。加野が担ったのは、コンパクトな4点ベースを中心とした「グリップから下」の設計だった。
求められていたのは、ただ小さいだけの4点杖ではない。小さくても安定して支えられること。そのためにまず向き合ったのが杖の脚部分、4点ベースの設計だった。

基底面を小さくしながら、安定感を保つ

4点スモールベースの設計で重要だったのは、コンパクトさと安定感を両立することだった。
スモールベースは、従来の大きな多点杖に比べて歩行時に邪魔になりにくい。一方で、基底面を小さくするほど、支えとしての安定感は失われやすくなる。

多点杖の脚部の重心と安定感

そこで加野が意識したのが、重心と基底面のバランスだった。
杖脚を地面に近い位置で構えることで重心を低くし、コンパクトでありながら安定感を高める。さらに、歩行時に扱いやすい大きさに収めながら、支えとして効く基底面はきちんと確保した。
小さく、邪魔になりにくく、それでいて安心して体を預けられること。その両方を成立させるために、4点ベースの設計は、安定感をどう確保するかという視点から詰められていった。

樹脂成形だからこそ必要だった強度設計

コンパクトな4点ベースには、安定感だけでなく、十分な強度も求められる。特に杖脚のつなぎ部分は見た目にも細く、強度設計では気を使う場所だった。
樹脂の成形品は、単純に肉厚にすれば強くなるとは限らない。厚くしすぎると、冷却時に内側が収縮し、歪みや内部の空洞が生まれることがある。成形品の特性を踏まえながらサンプルの作成と試験を重ねた結果、最終的には杖脚の横幅を少し太くし、内部にはさらなる補強のためのリブを加えることで安全な強度を確保した。

やわらGELグリップ4点杖の脚部裏

先ゴムには、ゴムではなくエラストマー樹脂を使用している。選べる中で一番柔らかい素材を選んだものの、厚みが出ると想像以上に硬くなった。ただ、4点杖は基本的に真上から置くように突いて使うもの。真上から突いた時の滑りにくさは確保できており、硬いからこそ擦り減りにくいという利点もあった。さらに、水を逃がすための溝を入れ、濡れた地面でも滑りにくくなるよう工夫している。

目指すのは「杖っぽくない杖」

開発の初期から、加野にはひとつの思いがあった。

杖っぽくない杖を作りたい

4点杖は、機能としてはとても合理的だ。体を支えるために、広い基底面を持たせることで安定感を出す。その目的に合わせて形が作られている。
けれど、その合理性がそのまま「介護用品らしい」見た目に仕上がってしまう。 「杖を買うこと、使うこと自体、きっと心理的なハードルがある人もいる。だからこそ、選ぶときに少しでも『これなら持っても良いな』と思える形にしたかった」加野はそう振り返る。

やわらGELグリップ4点杖の設計をする開発者

支えるだけの杖ではなく、使う人が少し前向きになれる杖にしたい。その思いから、ベース部分のデザインには、見た目の印象まで含めた細かなこだわりが込められていった。
CAD上では、ほんの小さな一部分を整えるために半日かかることもあったという。周囲から見れば「変わらないのでは?」と思われるような差でも、細部の積み重ねが、製品全体の印象を変えていった。

モチーフは、馬の蹄

この4点スモールベースの先端に取り付けられた先ゴム。その形状には、実は社内でもあまり知られていないモチーフがある。
馬の足、蹄だ。
「従来品とは異なる形状の足にしたいと考えたときに、馬ってかっこいいなと思って」
機能的には、足が4方向に出ていれば良いものである。けれど、ただ従来の多点杖に等しく4本の足がカーブを描いて伸びているだけでは面白くない。そこで加野は、馬の蹄のような形をラフに描き、先ゴムの形状や、杖足から先ゴムへつながるラインに落とし込んでいった。

やわらGELグリップ4点杖の設計をする開発者

杖脚から先ゴムへ自然につながっていくラインや、馬の蹄を思わせる先ゴムの形状。介護用品らしさを少しでも和らげる。馬の蹄という発想は、機能と印象をつなぐためのひとつの答えだった。 知ってから見ると、確かに足元の印象が違って見えてくる。

軽く、細く、でも強く

上段シャフトと下段シャフトの重なり

4点スモールベースの形状にこだわった一方で、杖全体としての強度も欠かせなかった。4点杖は、1点杖よりも強度が求められる。体重をしっかり支えるため、1点杖よりも負荷がかかることを想定しなければならない。

アルミ製シャフトで設計する上で選んだのが、直径20mmと18mmのシャフトだった。細くすれば、見た目はスタイリッシュになり、軽量化にもつながる。けれど、多点杖としての強度は失われやすい。特に弱くなりやすいのが、長さ調節用のラチェットピンの穴の部分だった。

通常、杖を長くすると内側の下段シャフト(18mm)が引き出され、外側の上部シャフト(20mm)はシャフト同士の重なりがなくなってしまう。それにより穴が開いている部分は特に強度が落ちやすく、荷重がかかった時の弱点になってしまう。

そこで加野が考えたのが、どの長さに調節しても、上段シャフトの穴のある箇所に下段シャフトが重なる状態を保つ設計だった。
やわらGELグリップ4点杖では、下段シャフトを通常より長くすることで、その構造を実現している。
「シャフトを長くすれば、もちろん少し重くはなります。でも、その重さよりも、強度を上げられるメリットの方が大きいと判断しました」
軽さと強度は、どちらか一方だけを選べばいいものではない。見た目には細く、手に取れば軽く、使うときにはしっかり支える

上段シャフトと下段シャフトの重なり

その矛盾するような条件を成立させながら、「やわらGELグリップ4点杖」は完成した。

ヒット商品になった理由

発売後、展示会などでの反応は好意的だった。
先ゴムの硬さについては質問もあったが、擦り減りにくさ4点杖としての使い方を説明すると、納得してもらえた。

やわらGELグリップ4点杖のイメージ画像

やわらGELグリップ4点杖が支持された理由について、加野は「足単体ではなく、全体として求められている形になったのだと思う」と話す。

やわらGELグリップという既存の強み。
市場で求められていたスモールベース。
今までの多点杖とは異なる、スタイリッシュな足元。

それら3つの要素がうまく重なったことで、商品としての力が生まれたのではと語る。

声を受け止め、形にするモノづくり

加野は今、ラージベースの4点杖にも可能性を感じている。
スモールベースとしては、やわらGELグリップ4点杖はひとつの完成形に近い。1点杖と大きな4点杖の間にいる商品として、役割は見えている。

一方で、大きい4点杖にはまだ課題がある。デザイン面でも、国産化という面でも、見直せる余地がある。スモールベースで得た経験を、今度はより大きなベースに展開できないか。 もちろん、樹脂でどこまで強度を出せるのかという難しさはある。それでも、加野は「かっこいいラージベースの4点杖も作ってみたい」と話す。

実現するかどうかは、まだわからない。けれど、こうしたこうできたら面白いかもという小さな種が、次の製品づくりにつながっていくのかもしれない。

加野の開発には、強い主張よりも、静かな優しさがあるように感じる。

困っている人がいる。
使いにくさを感じている人がいる。
できれば前向きに持ちたい人がいる。
その声を受け止めて、形にする。

やわらGELグリップ4点杖の足元には、そんな開発者の姿勢が宿っている。

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