製品開発ストーリー|シナノ 技術開発部

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杖・ステッキやわらGELグリップ4点杖TYPE-U

街や介護現場で目にしてきた、4点杖の逆手持ち。
杖は、想定とは異なる持ち方で使われていることが少なくありません。
その課題感を起点に設計が始まったTYPE-U開発のストーリーを紹介します。

逆手でも成立する形を探して
― 現場の“使われ方”から生まれた
やわらGELグリップ4点杖 TYPE-U ―

やわらGELグリップ4点杖 TYPE-U
シナノ 技術開発部 プロフィール画像

話を聞いたのは…

技術開発部

小林 塁 Rui Kobayashi

幼い頃から何かを作ることが好きで、「自分の手で役に立つ製品をつくりたい」という思いから製品開発の道へ。アウトドア製品への関心もあり、シナノのものづくりに魅力を感じシナノへ入社。
「最終的にユーザーが喜んでくれるかどうかを軸に、品質と信頼性にこだわったものづくりを心がけています。」

T字型グリップを逆に持たれている現実から、開発は始まった

「街中でも、事業所でも、グリップを逆に持って使っている人を見かけていました。『実はこういう持ち方なんですよ』って説明すると、間違っていることに気が付いていなかったという方が意外といらっしゃるんです」

やわらGELグリップ4点杖TYPE-U (以降TYPE-U) の開発を語るうえで、小林が何度も口にするのが“逆手持ち”という言葉だ。

杖のグリップを逆手持ちしている様子 多点杖 多脚杖

T字型グリップを本来とは反対向きに持つ——それは実際の使用現場で繰り返し起きている事実であり、メーカーとして無視してはいけないものだった。

「T字のグリップを逆に持って使うと、バランスを崩し転倒するリスクが高まります。それは危険なので、解消したかった」
TYPE-Uは、新しい形をつくるために生まれたのではなく、“現実に起きている使われ方”を受け止め、技術で解決するための再設計だった。

4点杖として成立させる難しさ

似た形状の製品は、過去にも市場に存在していた。
しかし、それらの多くは1点杖向けのものであり、4点接地の杖とは前提となる設計思想が大きく異なる。

「4点で支える杖だからこそ、力のかかり方も、使われ方も変わるんです」

1点杖の場合、荷重は比較的まっすぐ下方向に逃げる。
一方、4点杖では “横から体重を預ける”、“杖に荷重をかけた状態で向きを変える”といった使い方が日常的に発生する。 そのとき、ネック部やグリップには、単純な上下荷重ではなく、ねじれや横方向の力が繰り返し加わる。
「特に“体重を預ける”ような動作では、U字型のネック部分にかかる負荷は想像以上に大きいんです。強度はどうしても必要でした」

4点杖 多点杖 多脚杖

そのためTYPE-Uでは、基本となる構造は既存モデルを踏襲しつつ、4点杖としての使用実態を前提に、全体で約15%の強度アップを図っている。
これは“壊れにくくするため”という単純な話ではなく、荷重を受け止めながらも安心して使える状態を保つための設計だった。

見た目では分かりにくいが、この強度設計こそが、TYPE-Uが4点杖としての安定感を保ちながら、使いやすさを両立するための土台になっている。

六角ネックという「答え」にたどり着くまで

TYPE-Uの外観で目を引くのが、六角形のネック形状だ。この形は、デザイン上のインパクトだけを狙ったものではない。

「丸だと、グリップを握って使用するときに回ってしまうんです」
回転を防ぐためにピンを打つ→工程が増える→精度管理が難しくなるという問題もあり、丸形状には設計・生産の両面で課題があった。

「丸い形状のものは実は過去にもあったし、何か違う形にしたいという思いと、骨格として “介護用品” っぽく見えすぎないようにという意識もありました」

4点杖 多点杖 多脚杖

六角形は、回転防止差別化生産合理性を同時に満たす形だった。結果として、介護用品に寄りすぎない、ギア感のあるシャープな印象も生まれた。 機能から導かれた形が、自然とデザインにもつながっていった。

「上下にゲル」という、触覚で伝える設計

4点杖 多点杖 多脚杖

TYPE-Uのグリップは、外からは分かりにくいが、内部構造が従来モデルとは大きく異なっている。最大の違いは、ゲルの配置だ。

上と下に入ってる、という所が一番の違いですね。従来の『やわらGELグリップ』シリーズでは上部中心だったゲルを、TYPE-Uでは下にも配置しました」
一見すると、体重がかかるのはグリップ上部のため、「上だけで十分なのでは?」と思われがちだ。しかし、実際の使用シーンを観察すると、必ずしもそうではない。

「TYPE-Uでは、上から“乗せる”使い方と、指で“握る”動作が同時に起きます。特に4点杖の場合、体を支えながら持ち替えたり、方向転換したりする中で、グリップの下側にも指の圧が自然とかかるんです」
その感覚を、設計上も “例外”ではなく、“前提”として扱った。
上下どちらを触っても、やわらかさを感じる。どこをどう握っても、違和感がない。

TYPE-Uのグリップは、使い方を説明しなくても、手に取った瞬間に「こう持てばいい」と伝わる感触を目指している。それは、操作方法を教えなくても使えること、そして“迷わせない”ことを重視した設計でもあった。

仕上がりの違和感を残さないために

設計と試作は、一度決めたら終わり、ではなかった。形状や使い心地に少しでも違和感があれば、立ち止まり、もう一度確かめる。その繰り返しが必要だった。
「3Dプリントは、正直、失敗も多かったです。形状が複雑なので」独特なグリップ形状は、試作段階でも難易度が高かった。

4点杖 多点杖 多脚杖

FDM方式(溶かした樹脂を細い線として積み重ねるタイプ)の3Dプリンターでは、曲面や複雑な形状を印刷すると形が崩れたり層が目立ったりして、意図した確認ができないことも少なくなかった。
「3Dプリントの試作品を確認してから金型作成に進むので、できるだけ正確で、綺麗にプリントする必要がありました。3Dデータを半分に切って平らな面を下にして印刷し、あとから接着したり、印刷後にやすりで表面を整えたり。手で握って確かめる部分なので、なるべく実物に近づけられるよう試行錯誤を重ねました」

4点杖 多点杖 多脚杖

翌朝には確認が必要な状況の中で、夜中に一人で試作の様子を見に行ったこともあったと振り返る。(大きな声では言えない…)
最終段階が近づくタイミングでは設計を見直す場面もあったが、違和感を取り除き完成度を高めるための判断だった。

立ち止まるべきところでは止まり、確認すべきところは徹底的に確認する。その積み重ねが、TYPE-Uの設計を支えている。

六角だからこそ生まれた、量産の壁

TYPE-Uの難しさは、量産工程に入ってからさらに顕在化した。六角形状のネックは、大量の部品になると角があることで互いに傷付けやすかった。

「傷が付かないよう1本ずつ丁寧に守るため、部品を入れるための専用箱も作りました」
磨き工程の追加、初回の全量検査、専用梱包箱の設計。完成品だけでなく、流通や保管の段階でも品質を落とさないために工夫が必要だった。

4点杖 多点杖 多脚杖

さらに、グリップの接着工程でも想定外の壁に直面した。丸形状の部品なら、差し込んだあとに回しながら接着剤を全体になじませられる。ところが六角形状は回しにくく、接着剤が均一に広がりにくい。 接着剤の量が少なすぎれば弱くなってしまうし、多すぎると空気の逃げ道がなくなり奥まで入り切らず、かえって固定が不安定になる。 しかも製品は、冬の冷え込みや夏の車内の高温など、日常的な温度変化にさらされることを前提に成立しなければならない。
「これまでの技術で試したときは、良い結果が出ず苦労しました」

4点杖 多点杖 多脚杖

その条件を満たすために検証を重ねた結果、最終的に「抜けないこと」と「確実に入り切ること」を両立できる、適切な接着剤の量にたどり着いた。

迷わず正しく持てる形へ

そうした試行錯誤を経て、設計当初から目指していたU字型グリップを、4点杖として安心して使えるかたちで実現することができた。

4点杖 多点杖 多脚杖

「説明しなくても、自然に持てる形にしたかったんです」
小林が語るTYPE-Uの要は、製品としての目新しさではなく、正しく使ってもらえる形をどのように成立させるか、という視点だった。
U字型のグリップは、「逆手」「順手」という概念自体をなくし、持ち方で迷う必要がない。 そしてその形状は身体の近くで支えやすく、手すりのように体重を預けやすい。

さらに、4点杖として体重を預けても不安が出ないよう、強度設計を前提にしている。握りやすさだけでなく、安定感も損なわない。
T字型グリップの4点杖が逆手で使われていたという現実を、注意喚起ではなく構造で解決する
それが、やわらGELグリップ4点杖TYPE-Uの目指したかたちだった。

4点杖 多点杖 多脚杖

「ディテールは今までにあまりない見た目ですけど、ちゃんと意味のある形状になっています」
やわらGELグリップ4点杖 TYPE-Uは、使う人の動きに自然に寄り添う、安心感のある一本である。

シナノの『開発ストーリー』をご覧いただきまして、ありがとうございます。
これからのストーリーを充実させたく、ぜひ皆さまのお声をお聞かせください。

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